教皇、平和への強い思い、バチカン外交団への新年の挨拶で
教皇フランシスコは、1月8日(月)、バチカンの外交団と新年の挨拶を交換された。
年初め恒例のこの行事のため、同日午前、バチカンと外交関係を持つ世界各国の大使らが「祝福の間」に一堂に会した。
昨年2月23日、教皇庁はオマーン国と完全な外交関係を樹立、これにより現在、バチカンと外交関係を持つ国は184カ国。これらの国々のほかに、さらに欧州連合とマルタ騎士団が加わっている。
平和は賜物にして責任
年頭の言葉で教皇は、「わたしは、平和をあなた方に残す」(参照 ヨハネ14,27)と主が言われたように、平和は神の賜物である一方で、「平和を実現する人々は幸いである」(マタイ5,9)とイエスが教えるごとく、平和はわたしたちの責任でもあると述べ、今日「脅かされ、弱まり、部分的に失われてしまった」平和への強い思いを表された。
教皇は、ピオ12世が1944年の降誕祭前夜のラジオメッセージで、5年以上続いた戦争の後、「人類は、この世界大戦、この世界規模の動乱を、深い刷新のための新しい時代の出発点にしたいとの、明らかな確固たる意思を感じている」と述べたことを回想。
それから80年が経った今、あの「深い刷新」への意欲は失われ、世界に増加していく紛争は、「散発的な第三次世界大戦」と呼ばれているものを、正真の世界規模の紛争に少しずつ変えようとしている、と警告された。
世界情勢の展望
こうした中、教皇は現在イスラエルとパレスチナで起きていることに憂慮を表明。昨年10月7日のハマスによるテロ攻撃の残忍さ、多くの人々を人質にとった行為を厳しく非難された。
あらゆる形のテロリズムと過激主義を糾弾する教皇は、このような方法で人民間の問題は解決せず、むしろそれをより困難にし、人々の苦しみを生むだけである、と述べた。そして、実際、こうした行為がイスラエル軍のガザ地区への強い反撃を招き、子どもや若者を含む、数万の民間人の死をもたらし、想像もできない苦しみを伴う重大な人道危機を引き起こした、と語られた。
教皇は紛争のすべての当事者に、レバノンを含むすべての前線での停戦と、ガザで拘束されている人質の即時解放、そしてパレスチナの人々への人道支援、病院・学校・宗教施設の保護をアピールされた。
また、教皇は、「二国家解決」とエルサレムの国際法的に保証された特別な地位の実現に向け、決意をもって努力することを国際共同体に願われた。
ガザにおける紛争が、以前からの脆弱で緊張した状態にさらなる不安定をもたらした地域として、教皇は特にシリアを挙げ、安定しない政治・経済に加え、昨年2月の地震でさらに状況が悪化した同国で暮らす国民、そしていまだヨルダンやレバノンにいる多くのシリア難民たちのために寄り添いを示された。
また、レバノンの社会・経済情勢を心にかける教皇は、同国が政治的停滞から脱し、早く大統領の空位を埋められるよう望まれた。
次に、教皇は中東からアジアに目を向け、ミャンマー情勢に言及。同国民に希望を、若者に未来を与えられるよう、またロヒンギャの人々の人道危機を忘れないよう、国際社会の関心を喚起された。
ロシアとウクライナ間の戦争からもうすぐ2年が経過しようとしているにも関わらず、待たれる平和はいまだ訪れず、多数の犠牲者と膨大な破壊をもたらしている状況に、教皇は紛争をこれ以上悪化させ続けないために、国際法の尊重のもと、交渉を通してこの悲劇に終止符を打つことが必要と述べた。
アルメニアとアゼルバイジャンの緊張状態にも憂慮を示された教皇は、双方が平和条約にこぎつけることができるように願われた。
アフリカ情勢をめぐり、教皇はサブサハラ諸国の、テロや、社会・政治的問題、気候危機などを原因とする様々な人道危機、中でもエチオピアやスーダンの内戦、カメルーンや、モザンビーク、コンゴ民主共和国、南スーダンの避難民の状況に触れた。
中南米に関し、教皇はベネズエラとガイアナ間の強い緊張、ペルーにおける分極化、ニカラグアの社会状況に懸念を表した。特にニカラグアの危機がカトリック教会に与えている痛ましい影響について、教皇は外交対話へと招き続ける教皇庁の立場を改めて示された。
国際条約と軍縮
教皇は、新しい年の初めに当たり、「戦争に関しては、軍事行動とその結果の非人道性を少なくすることを目的として、種々の国際条約が存在し、多くの国がそれに加盟している[…] これらの条約は守られるべきである」という第二バチカン公会議文書『現代世界憲章』の言葉(同79)を引用。たとえそれが正当防衛を行使する時であっても、釣り合いのとれた力の使用を守ることが不可欠であると話した。
また、教皇は、市民の犠牲者は単に「巻き添い被害」ではなく、それぞれ名前を持つ人たちが、命を奪われたということを理解すべきと語った。
平和問題について、戦争の継続を可能にしているのは豊富な武器のおかげであると言う教皇は、軍縮政策を続けることの大切さを説く中で、特に「核兵器の製造と保有は倫理に反する」と、今一度訴えられた。
平和の追求のために
一方で、平和の追求のためには、戦争の道具をなくすだけでは十分でないとも教皇は述べ、飢餓をはじめとする、戦争の原因となるものを取り除く必要を指摘。
さらに、教皇は、環境危機や、気候変動が紛争に与える影響を指摘しつつ、昨年ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の実りが、エコロジー的移行を促すことを期待された。
教皇は、この挨拶の中で、平和のために、国際共同体・政治・社会・諸宗教など、様々なレベルでの対話の必要を改めて強調。
また、移民現象、生命保護、人権、ジェンダー理論、教育、人工知能、反ユダヤ主義増加、キリスト教徒迫害などのテーマにも言及された。
聖年に向けて
最後に、次の降誕祭から始まる「聖年」は、「神のいつくしみと平和の賜物を経験する恵みの時」と述べた教皇は、この聖年が皆にとって、「剣を打ち直して鋤とし」、「国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない」(参照 イザヤ2,4)時となることを祈られた。