教皇「科学が人間の尊厳を高め、それに奉仕するように」
教皇フランシスコは、9月23日、教皇庁立科学アカデミーの総会にメッセージを託された。
同アカデミーは、「持続可能な人新世のための科学−イノベーションの機会、課題、リスク」をテーマに、同日より25日まで定例総会を開催している。
教皇は軽いエンフルエンザ症状のため、この朝予定されていたアカデミー会員らとの出会いを取り消された。バチカン広報局によれば、教皇は数日後にルクセンブルグ、ベルギー訪問を控えていることもあり、大事をとって公務を休まれたという。
科学アカデミーの総会参加者に向けて用意した挨拶の中で、教皇は、人類が自然や生態系に与える強い影響をめぐり、ますます深まる懸念に言及。
そして、同アカデミーの会員であったパウル・クルッツェン教授(1933-2021)が、被造物へのこうした影響を総称して「人新世(アントロポセン)の時代」と呼んだことを知った、と述べている。
教皇は、同アカデミーには、人間の活動が被造物に与える累積的影響をいち早く認識し、それに伴うリスクや問題を研究してきた人々がいることに触れつつ、「人新世」が自然と人間に対し、とりわけ気候危機と生物多様性の喪失においてもたらしつつある劇的な影響が次第に明らかになってきた、と記している。
こうした中、同アカデミーが、特に貧しい人々や社会から疎外された人々への影響を考慮しながら、これらの問題に関心を注ぎ続けていることに教皇は感謝を表明。
科学が、物理的世界を知り理解することの追求において、人間個人と全人類の尊厳を高め、それに奉仕するためにその知識を用いることの大切さを見失うことがないようにと願われた。
世界が深刻な社会的、政治的、環境的課題に直面する今、包括的な公的議論が、多様な科学分野だけでなく、社会を構成するあらゆる人々の参加から情報を得た、より広いコンテキストを必要としていることは明らか、と述べた教皇は、このような観点から、様々な会議を通し、疎外された人や貧しい人に関心を向け、先住民族と彼らの知恵をその対話に取り入れる同アカデミーの方針を歓迎された。
今総会は、新たな科学とイノベーション、科学と地球の健康のポジティブな関係をもテーマとして扱っているが、教皇は特に人工知能の進歩が、医療・健康分野での技術革新や、自然環境の保護、気候変動を考慮した資源の持続可能な利用等に役立つことを期待された。
一方で、教皇は、人工知能が一般の人、特に子どもや弱い立場にある人に深刻な悪影響を与える可能性や、世論を形成し、消費者の選択に影響をおよぼし、選挙プロセスに干渉するために操作的に利用されるリスクを認識・防止する必要を指摘した。
「全人類の生活の質を向上させることなく、逆に不平等や紛争を悪化させるような技術開発は、決して真の進歩とはいえない」(2024年度「世界平和の日」メッセージ)と述べつつ、教皇は人工知能が個人や国際社会に与える影響をめぐり、より多くの関心と研究の必要を喚起。
この複雑な分野におけるリスクを防ぎ、利点を促進するために、適切な基準の提案に取り組む同アカデミーの関係者らを励まされた。