日本司教団:原発廃止問う文書を英文で公開
日本カトリック司教協議会は、原子力発電の撤廃について考察・提言する文書『今こそ原発の廃止を─日本のカトリック教会の問いかけ』(2016年)の英訳版を、このたびカトリック中央協議会公式サイトの以下のページに公開した。
https://www.cbcj.catholic.jp/2020/07/08/20959/
日本司教団は、原子力発電の是非をめぐり、2001年、『いのちへのまなざし―21世紀への司教団メッセージ―』の中で、核エネルギーの開発は、人類にこれまでにないエネルギーを提供する一方で、広島・長崎に投下された原爆や、チェルノブイリ事故、東海村の臨界事故など、後世に重い被害を与える危険をもはらんでいることを指摘。その有効利用について、「人間の限界をわきまえた英知と、細心の上に細心の注意を重ねる努力が必要」とし、「悲劇的結果を招かないために、安全な代替エネルギーを開発していくよう」すでに希望していた。
2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震による津波の影響で、福島第一原子力発電所で深刻なレベルの事故が発生。この事故から8か月後の同年11月、司教団は、『いますぐ原発の廃止を~福島第1原発事故という悲劇的な災害を前にして~』と題されたメッセージを発表。この原発事故の「悲劇的な結果」と崩れ去った「安全神話」を直視しつつ、10年前の司教団メッセージ『いのちへのまなざし』では、ただちの原発廃止までは呼びかけることはできなかったものの、「福島第1原発事故という悲劇的な災害を前にして、そのことを反省し、日本にあるすべての原発をいますぐに廃止することを呼びかけたい」と記した。
それから5年が経過した、2016年11月、日本の司教団は、メッセージ『原子力発電の撤廃を-福島原子力発電所事故から5年半後の日本カトリック教会からの提言-』を公布。福島原発事故から5年半、これまでの事態を見つめ、「原子力発電の危険を世界のすべての人に知らせ、その撤廃を呼びかけるほかはないと考えるに至った」と述べている。特に「日本は核エネルギーによってもたらされたさまざまな惨禍を経験してきた国」であるゆえに、「世界各地の核被害者と連帯し、唯一の戦争被爆国として率先して核兵器廃絶を世界に訴え、あらゆる核問題の解決を世界に呼びかける特別な責任がある」と考えを述べている。そして、折しも2015年5月に公布された、教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』のエコロジカルな視点をもって、「今一度立ち止まり、人類社会の目指すべき発展とは何か、真の豊かさとは何かを問い直」し、「地球家族」として皆で手を取り合い、環境保全の責任を自覚し、協力し合う必要を説いている。
このメッセージと並行して、同年、日本司教団から発表された文書、『今こそ原発の廃止を―日本のカトリック教会の問いかけ』は、「原子力発電は撤廃するべきであるとの立場に立ち、各分野の第一線の研究者に協力を求め、福島第一原発事故の被害状況、原発の技術的、社会学的な限界、それらについての倫理学的、神学的な考察をまとめ」たもの。その内容は、「第1部 核開発から福島原発事故―歴史的・社会的問題」「第2部 核エネルギー、原子力発電の科学技術的性格」「第3部 脱原発の思想とキリスト教」の全3部から構成される。
「原子力発電は、ひとたび過酷事故が起これば、広域に、数世代にわたって環境を破壊し、生命と生活の権利を奪う技術」であり、「原発の過酷事故を起こした日本には、世界に向けてこそ、事故被害の実情を知らせ、脱原発を訴える責任がある」と考える司教団は、2020年7月、同文書の英語版を公開した。
この英語版の公開にあたり、日本司教団は、「世界中で、様々な立場から、本書が提起する原子力発電の撤廃について、地球の持続可能性のための重要な課題として議論していただきたい」と希望している。