パンデミック危機は「選択の時」「回心と変容の機会」教皇、国連総会に
今年2020年は、国連の創設から75年目にあたる。
9月21日より、ニューヨークの国連本部では、第75回国連総会のハイレベルウィークが開催されている。
教皇フランシスコは、2015年9月に行われた国連本部訪問からまさに5年目にあたる、この9月25日、同会議にビデオを通しメッセージをおくられた。
今日、世界を襲っているパンデミックは、多くの人の命を奪い、現行の経済・医療・社会のシステムを問いながら、わたしたち人間の脆弱さを露出している、と教皇はこのメッセージで述べた。
パンデミックは、この試練の時を、何が重要で何がそうでないかを選ぶ、「選択の時」とするよう招いている、と教皇は述べると共に、この危機を、資源の不当な分配によって貧富の差を広げている、わたしたちの生活スタイルや経済・社会構造を再考するための、回心、変容の機会として示された。
わたしたちはどちらかを選択すべき、2つの道を前にしている、と教皇は語り、その道とは、世界的な新たな共同責任、正義に基づく連帯、神の御計画である人類の平和と一致を表す、多極性の強化に導く道、もう一つは、自己完結的態度、自国中心主義、保護主義、個人主義、貧しく弱い人々を排除しつつ孤立に導く道である、と話した。
パンデミックは、公衆衛生の促進と、すべての人が基本的な治療を受けられる権利の促進を急務として提示した、と語る教皇は、Covid-19に対するワクチン、病者の治療に必要な技術へのアクセスを保証し、特に貧しく弱い人に配慮するよう、政治責任者らにアピールされた。
同時に、教皇は、パンデミックが仕事に与えた影響に触れ、特に不確定要素や、ロボット化によって、不安定な状態に置かれた労働界に思いを向けられた。
この危機は方向の転換を迫り、わたしたちはそのための財源や技術を持っているが、この転換は、今ではすっかり広がり定着した「切り捨ての文化」を乗り越えるだけの、もっと強い倫理的基盤を必要としている、と教皇は述べた。
そして、この「切り捨ての文化」の根源には、人間の尊厳の尊重の大きな欠如、人間を矮小化したビジョンを持ち、基本的人権の普遍性を否定するイデオロギーの促進がある、と警告した。
教皇は、この危機は、国連にとっての一つのチャンス、より兄弟愛と憐みに満ちた社会を生み出すための一つの機会である、と述べ、超裕福層と慢性的な貧困層との間に急速に広がる格差に対応し、経済的な不正義に終止符を打つよう、国際共同体の努力を願われた。
また、教皇は環境問題に言及。環境危機と社会危機の密接な関係を示しながら、環境保護とは、貧困や締め出しと闘うための統合的なアプローチを要するもの、と説かれた。
近年のエコロジーに対する人々の意識の向上や活動意欲を評価しつつ、教皇は、前世代が引き起こした問題を、次世代に重荷として背負わせぬよう、気候変動による悪影響軽減のために人的・経済的・技術的資源を充てる政治的意志の有無を、真剣に問わなくてはならない、と話された。
教皇は、パンデミック危機が子どもたちに与えている影響にも目を向け、多くの子どもたちが学校に戻れないでいる一方で、児童労働や虐待、栄養失調が増える危険を憂慮された。
ある国々や国際組織が堕胎を一種の「本質的サービス」のように推進していることを教皇は遺憾とされ、いのちを否定することが問題解決となるかのごとく、堕胎が容易になることは痛ましいと教皇は話された。
同様に、女性の置かれた状況にも触れた教皇は、社会のあらゆるレベルで女性の活躍が見られるようになった反面、女性たちがいまだ隷属や、人身取引、暴力、搾取の犠牲となっている現実を見つめられた。
メッセージの最後に、教皇は、貧困、感染症、テロリズムなど、平和と安全に対する主要な脅威の間に、核兵器を含めた軍拡問題がある、と指摘。
貴重な財源を乱費し続けるよりは、人々の統合的発展と自然環境保全のために使用すべきである、と語った。
教皇は、武器保有が個人と社会の安全につながるというよこしまな論理を覆す必要がある、と述べ、このような論理は兵器産業を富ませ、人民間に不信と恐れを育てるだけである、と話された。
中でも、核兵器による威嚇は、互いの壊滅という脅威に基づく恐怖心を煽るものであり、その結果として、人民間の関係を損ない、対話を妨げることになる、と述べた。
それゆえ、核軍縮、核兵器不拡散、核兵器禁止に関する主な国際条約を支持することの重要性を強調しつつ、教皇は、次回の核拡散防止条約(NPT)の再検討会議が、一刻も早く核軍拡競争を止め、核軍縮への道を歩むための、具体的な行動を表すものとなることを希望された。
さらに、教皇は、国連が平和の工房となり、安全保障理事会、特に常任理事国メンバーが、より一致と決意をもって行動することを望まれた。
今、この危機の時、わたしたちのなすべきことは、「わたしたちの共通の家と共通の計画について再考すること」である、と述べた教皇は、国々を近づけ、一致させるために創設された国連が、人民の架け橋となり、わたしたちが直面しているこの挑戦を、望ましい未来を再び構築するための機会に変容させていくことができるようにと祈られた。