ギリシャ訪問:教皇「良い政治の基本は共通善への配慮」
12月4日(土)、ギリシャに到着した教皇フランシスコは、カテリナ・サケラロプル大統領をアテネ市内の官邸に表敬訪問された。
官邸入り口でサケラロプル大統領に迎えられた教皇は、エントランスホールで共に歓迎式に臨まれた。
この後、教皇は官邸内で大統領と会談を持たれ、次いでキリアコス・ミツォタキス首相とも会見された。
官邸の広間で行われたギリシャ各界の代表および駐在外交団との会見で、教皇は同国訪問における最初の公式の挨拶をおくられた。
この中で教皇は、精神性、文化・文明の豊さあふれるギリシャの歴史に触れ、アテネとギリシャ無くしては今日ある形でのヨーロッパと世界は存在しなかっただろう、と述べられた。
オリンポス山から、アクロポリス、アトス山に至るまで、ギリシャはあらゆる時代の人間の眼差しをいと高き所へ、神へと導いてきた、と教皇は話した。
一方で、アテネは、人間の眼差しを高きに導くだけでなく、地中海のただ中で人々を結ぶ架け橋として、他者の存在にも目を向けるよう促されてきた、と指摘。
市民共同体「ポリス」の中で生まれた民主主義は、世紀を経て、人民が民主的に集う大きな家、すなわち欧州連合へと育ち、同時に世界の多くの民族に平和と兄弟愛の理想を築いた、と語られた。
こうした中、現代世界における民主主義の危機に触れた教皇は、良い政治の基本は、ポジション作りではなく参加すること、共通善に配慮し特に最も弱い立場の人々に関心を持つこと、と話された。
教皇は、気候変動や、パンデミック、貧困の拡大など、今日の大きな課題を挙げつつ、多極主義を通して平和の道を開くことのできる国際共同体が必要、と説かれた。
ここ数年、気候変動を原因とするある種の気象条件の中で、地中海地域を象徴する古いオリーブの木々が、火災によって焼失するのを見るのは悲しいことである、と教皇は語り、この傷ついた環境を前に、オリーブの木が気候危機と環境破壊に立ち向かう意志のシンボルとなることを願われた。
同時に、教皇は、「創世記」に記された洪水の後に、鳩がオリーブの枝をくわえてノアのもとに帰ってきたエピソード(参照 創世記8,11)を思い起こしながら、オリーブを創造主と被造物に対する関係を改める再出発の象徴とみなし、気候変動との闘いに取り組み続けよう、とアピールされた。
さらに、聖書に「オリーブの実を打ち落とすときは、後で枝をくまなく探してはならない。それは寄留者、孤児、寡婦のものとしなさい」(申命記24,20)とあるように、オリーブは連帯への招きの象徴でもある、と教皇は指摘。
経済危機による疲弊にも関わらず、上陸する多くの移民を受け入れてきたギリシャの姿勢に対し、ヨーロッパ諸国が国家的エゴイズムのために分裂している状態を見つめた教皇は、かつてはイデオロギーが東西の対話を妨げたが、今では移民問題が南北関係を不安定にしている、と話された。
長い生命を保つオリーブの木のように、記憶とルーツを保つことの大切さを説いた教皇は、ギリシャがこれからも「ヨーロッパの記憶」となって、民主主義や社会正義を守り、新しいヒューマニズムのかなめとなっていくことを希望された。