世界広報の日2024:人工知能をめぐり、教皇メッセージ
カトリック教会は、毎年、聖霊降臨の前週の日曜日(日本の教会においては復活節第6主日)に、「世界広報の日」を記念する。
今年は5月12日(日本の教会では5月5日)に行われるこの記念日に先立ち、教皇フランシスコはメッセージを発表された。
2024年度広報の日のメッセージは、1月1日に行われた「世界平和の日」と同様に、「人工知能(AI)」をテーマとしている。
「人工知能と心の知恵:人間性に満ちたコミュニケーションのために」と題されたメッセージで、教皇は、報道や広報の世界をもラディカルに変容し、社会共存の基礎にも影響を与えつつある人工知能や新しいテクノロジーをめぐり、それらがもたらすチャンスとリスクについて考えている。
そして、人工知能の時代、わたしたち人類の未来はいかなるものになっているのか、どうしたらその未来が人間性に満ち、善に方向づけられたものとして残ることができるのか、を問うている。
テクノロジーが豊富な一方、人間性に乏しいこの時代、この問題を考えるには、人間の心から出発することが不可欠である。精神的な眼差しを持ち、心の知恵を取り戻してのみ、われわれは時代の新しさを読み取り、解釈し、人間性に満ちたコミュニケーションへの道を再発見することができるだろう、と教皇は述べている。
自らの能力だけでは足りないことを常に体験しつつ、あらゆる方法を用いて自分の弱さを克服してきた人類は、今日、思考を補助するために働く洗練された機械を持つに至った。しかし、これらの現実は「神を持たない神」という誘惑に汚染される可能性があると教皇は警告する。
心が指向するものによって、人間が手にするあらゆるものは、チャンスにもリスクにもなりうる、と教皇は指摘。人工知能システムは無知からの解放に貢献し、異なる人民間、世代間の情報交換を容易にすることができるかもしれない。しかし、その一方で、AIは部分的、あるいは完全な偽りによって現実を歪め、「認識を汚染する」道具ともなりうる、と懸念を表している。
こうした中、教皇はフェイクニュースやフェイク動画・画像、中立的でないアルゴリズムなどがもたらす危険に言及。AIが誤った使い方をされる時、ネガティブな状況が広がりかねない、と述べている。
また、教皇は、デジタル革命は人を自由にする一方で、たとえば「エコーチェンバー」に閉じ込められた場合など、情報の多極化を育むどころか、むしろ市場や権力の利害に都合の良い情報の沼の中に自分を見失う危険がある、と記している。
教皇は、国家間共同体が様々な形態の人工知能の開発と使用を管理する、拘束力のある国際条約の採択に向けて共に働くよう改めて呼びかけた。
一方で、こうした規則だけでは十分ではないとする教皇は、われわれは人間性において、人類として共に成長するよう求められている、と強調。
わたしたちが立ち向かうべき課題とは、多民族的、多元的、多宗教的、多文化的な、複雑な社会に対応するにふさわしい、質的な飛躍をめざすことである、と説かれた。
そして、教皇は、これらの新しいコミュニケーションと知識のツールの論理的発展と実用化について問いただすのはわたしたち自身の役割である、と述べている。
人工知能は、新しい形の隷属や不平等を生みながら、情報支配に基づく新たな階級システムを構築することになるのか。あるいは、人々の様々な必要に耳を傾け、正しい情報を推進しながら、より多くの平等をもたらすのか。
答えはまだ書かれておらず、それはわたしたちにかかっている、と教皇は述べている。
教皇は、人類を道に迷わせないために、純粋な心を通して、神の友と預言者を育てる「知恵」を何よりも求めることで(参照 シラ書1,4、知恵の書7,27)、人間性に満ちたコミュニケーションに対する人工知能の適応化を助けることができるだろう、と記された。