G7 : 教皇「AIが善を築くための道具ならば、常にすべての人の善のために」
教皇フランシスコは、6月14日(木)、イタリア南部プーリア開催中の先進7カ国首脳会議(G7)に出席、人工知能(AI)をテーマにスピーチを行われた。
同日正午過ぎ、教皇は、プーリア州ブリンディジ県ファザーノにあるG7の会場、ボルゴ・エニャツィアに到着された。
今サミットの議長国イタリアのメローニ首相に迎えられた教皇は、さっそく国際通貨基金のゲオルギエワ専務理事、ウクライナのゼレンスキー大統領、フランスのマクロン大統領、カナダのトルドー首相と個人会談を行われた。
次いで、メンバーでない国々にも開かれた共同セッションにおいて、教皇は人工知能(AI)が人類の未来に与える影響を考察するスピーチを行なわれた。
この席で教皇は、AIがすでに人間活動の広い分野で用いられ、人々の生活スタイル、社会的関係に今後ますます影響をもたらすことが見通される中、将来には人間のアイデンティティーの理解のあり方までにその影響は及ぶだろう、と述べた。
教皇は、AIが与える可能性への熱狂と、その影響に対する恐れが共存する、AIをめぐる議論の両面性に言及。
いずれにせよ、AIの将来が真の知識的-産業的革命を構成し、それが歴史的で複雑な変化に特徴づけられた、新しい社会システムの構築に貢献することは疑いようがない、と話した。
教皇は、AIが知識へのアクセスの民主化、科学研究の増大的な進歩、重労働を機械に一任する可能性を約束する一方で、先進国と発展途上国の間に、また社会の支配階層と抑圧された階層の間に重大な不正義をもたらし、「切り捨ての文化」によって「出会いの文化」が追いやられる恐れを語った。
教皇はこれらの複雑な変化は、AI自体の技術発展の速さとも関連しており、それがAIを魅力的であると同時に恐ろしい道具とし、状況に対応できるだけの高度な考察を必要とさせている、と述べた。
この道具という観点から、教皇は人類および文明の歴史と切り離せない、道具の歴史に注目。
人間自体が、兄弟姉妹たちそして「共に暮らす家」に奉仕する「善の道具」としての召命を内側に秘めているにも関わらず、人間は道具を必ずしも善だけのために用いて来なかった、と話された。
教皇は、テクノロジーの道具も、人類に奉仕するというその召命を保証されてこそ、人類の偉大さと尊厳だけでなく、地球とその住民を育て守るという使命を示すことができるだろうと語られた。
また、教皇は、テクノロジーについて語ることは、人間とは何か、その自由と責任、すなわち倫理について語ることでもあると強調。
ある単純な道具、たとえばナイフのような道具は使用する人間の管理下にあり、それをどう使うかはその人にかかっているが、AIは与えられた課題に自動的に適応することもできるため、そのように設計された場合には、あらかじめ設定された目的に達するために、人間とは関係なしに、独自の選択で働く可能性があることを懸念された。
人間は選ぶだけでなく、心を通して決断する力を持っていると述べつつ、教皇は、独自に選択できる力を持った優れた機械を前に、決定は常に人間の側にあるべきことを明確に理解していなければならない、と話した。
そして、もしわれわれが、人々から自分自身と自分の人生について決定する力を取り上げ、機械の選択に依存させるならば、人類に希望のない未来を負わせることになる、と警告された。
こうしたことから、教皇はAIのプログラムの選択プロセス上に、人間による重要な管理の余地を保証し、それを保護する必要をアピールされた。
さらに、教皇は、AIを用い、あらゆるテーマや題材の文章や画像をオンライン上で簡単に作れることについて、特にAIを使い慣れ、多用している学生たちに触れた。
生成系AI(ジェネレーティブAI)は、厳密には「生成的」ではない、と教皇は述べ、それはビッグデータの中から情報を探し、要求に応じて、魅力的なスタイルで仕立てるものであり、新しい概念や分析を発展させるものではないと話した。
ある概念や仮説が繰り返し見つけられるたびに、それらは正当で有効なものであると見なされていく。すでにあるコンテンツを再構成し、しばしば間違いや偏見を含んでいないかをチェックすることなく、それを定着化させ、時にはフェイクニュースを正当化しかねないという意味で、それは「生成的」というより、むしろ「強制的」である、と教皇は語られた。
いかなるイノベーションも中立ではない、テクノロジーはある目的のために生まれ、人間社会におけるそのインパクトを通し、社会的秩序や権力の形をもって、人の行動を促したり、妨げたりする、と教皇は述べ、AIにもそれは当てはまることであり、それが善を築くための道具であるならば、常にすべての人の善のために作られていなければならない、と説かれた。
AIをめぐり、教皇は、正しい使い方が一人ひとりに求められていると同時に、その正しい使い方が可能となり、多くの実りをもたらすように、そのための条件作りが政治に求められている、と話された。
教皇は19時から、ケニアのルト大統領、米国のバイデン大統領、ブラジルのルーラ大統領と、相次ぎ会談された。
一方、バチカン広報局によれば、教皇は、インドのモディ首相、トルコのエルドアン大統領と、午後のセッション終了後、それぞれ出会いと対話を持った。
教皇は、午後20時48分、ヘリコプターでプーリアを後にされ、およそ1時間半後にバチカンに戻られた。
(更新 6月14日 23時)