日本・バチカン80周年:「結ぶ」テーマに、いけばなとダンスの融合
日本とバチカン間の外交関係樹立から80年を記念し、6月2日、ローマ市内のカンチェレリア宮殿で、いけばなとコンテンポラリーダンスを融合した日本の若き芸術家らによるパフォーマンスが披露された。
カンチェレリア宮殿は、カンポ・ディ・フィオーリに隣接する16世紀初頭の建造物で、内部には教皇庁の裁判所(最高裁判所・内赦院、控訴院)が置かれている。
この催しでは、ルネッサンス様式をそのままに伝える同宮殿の広間で、「結ぶ」をテーマに、いけばな小原流五世家元・小原宏貴氏によるいけばなとインスタレーション制作、舞踊家・振付師Seishiro(セイシロウ)氏による現代舞踏が、衣装デザイナー齋藤ヒロスミ氏の協力のもとに繰り広げられた。
岡田誠司・在バチカン日本国特命全権大使は、記念イベントの開催にあたり、この80年の間に強められた日本バチカンの関係を振り返り、特に2019年の教皇フランシスコの訪日、そして今年5月の岸田首相のバチカン訪問に言及した。そして、伝統的いけばなのみにとどまらず、新しい芸術のあり方について創造的な活動を行っている小原氏と、ダンサーのSeishiro氏とのコラボレーションによる全く新しい芸術を楽しんで欲しいと、催しを紹介した。
また、教皇庁文化評議会次長、タイ・ポール・デスモンド師は、日本の芸術に触れるこの機会に喜びを表し、芸術は、たとえ特定の歴史や社会を背景に育まれたものであっても、その美は普遍の言語を語り、すべての人の魂に触れることができる、と話した。
インスタレーション制作では、まず、広間に組み立てられた木材に、バチカンと日本の絆の歴史を象徴するように、結んだ帯が一つひとつ取り付けられていった。やがて、小原氏の手で組んだ木の間に枝や葉また花が入れられる中、インスタレーションは生き生きとした表情と奥行きを帯びていった。
小原氏によれば、インスタレーションに使用された帯は、小原流いけばなの会員らが寄贈したもので、これにはサステナビリティーに対する思いがあるという。
続いて、完成したインスタレーションの前で、Seishiro氏が、帯をアレンジした純白の衣装をまとい、静と動が共存する、ストーリーと情感あふれるダンスを力強く舞った。
ルネッサンスの空気漂う重厚な広間で、日本の若い芸術家たちが挑む伝統とコンテンポラリーアートが融合したパフォーマンスに、観客は惜しみない拍手をおくっていた。
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また、この催しと並行して、ローマ市内のサンタ・マリア・デッロルト教会内の福者中浦ジュリアン神父の肖像(三牧樺ず子氏作)の前に、小原流五世家元・小原宏貴氏による献花が行われた。
ローマのトラステヴェレ地区にあるサンタ・マリア・デッロルト教会は、日本と深いつながりを持っている。
1585年、天正遣欧少年使節団がローマに到着した。使節のローマ滞在中のある日、歓待行事の一つとして、テベレ川を舟で下り、オスティア方面の海へと向かう遠足が企画された。テベレ川の船着き場「リーパ・グランデ」から乗船する前に、少年たちは近くのサンタ・マリア・デッロルト教会に立ち寄り、祈りを捧げた。海に近づいた頃、教皇シスト5世が派遣した楽隊を乗せた別の小舟も加わり、まさに宴が行われようとした時、突然の激しい嵐に見舞われ、何艘もの舟は波にのまれそうになった。この時、使節の少年たちは乗船前に訪れた同教会の聖母を心に留め、熱心に祈った。すると嵐は急におさまり、すべての舟は無事ローマに戻ることができた。
この出来事から、3年後、シスト5世は、サンタ・マリア・デッロルト教会に付属する信心会(コンフラテルニタ)を、複合的な大きな信心会(アルチコンフラテルニタ)に引き上げた。現在でも、同教会の聖母の祭日(10月第3日曜日)には、1585年の出来事を思い起こし、ミサの中で感謝の賛歌「テ・デウム」が捧げられる。
日本から初めてローマを訪れた天正遣欧少年使節は、サンタ・マリア・デッロルト教会の歴史にも、日本とローマを結ぶ一つの絆を残した。こうしたゆかりから、中浦ジュリアン神父が列福された翌年、2009年、同福者の肖像画が寄贈された。